京都地方裁判所 平成2年(ワ)155号 判決 1991年9月24日
原告
八木利一
被告
国
右代表者法務大臣
左藤恵
右指定代理人
石田裕一
右同
會津隆司
右同
小林清久
右同
嶋田昌和
右同
村原正春
右同
田中眞利子
右同
前田富夫
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告は、原告に対し、金一八〇〇万円を支払え。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 園部労働基準監督署石野第二課長は、原告が昭和三六年ころから昭和三八年ころまでの間に従業員を雇用して砥石の採掘等の事業をしておらずまた労災保険料を納付していた事実もないことを知りながら、昭和五三年六月五日ころ、京都砥石労働災害保険組合会長森久一を強要して、そのころ、同人に、原告が昭和三六年ころから昭和三八年ころまでの間従業員を雇用して砥石の採掘等の事業をし、労災保険料も納付していた旨の虚偽の内容の報告書を提出させた。
2 京都労働基準監督局審査官並河賢一郎は、昭和五五年四月一七日、原告に対し、電話で、「警察に送る。」「休業補償が認められなかったら森富美夫に対してどれだけの補償をするのかを確かめる。森富美夫の財産を取り上げてでも原告に支給する。」「休業補償給付支給請求書(甲第一号証)の基幹番号は不正であり、原告が偽造したものである。原告は偽造により請求している。」「森金次郎が保険金を支払っていたというのであれば、領収書を証明者に対して提出せよ。」などと述べて、原告を脅迫した。
3 京都労働基準局長は、原告を労働基準法九条の労働者と認めなかったことについて原告が昭和五五年四月一七日に回答を求めたのに対し、その後、何の回答もせず、同局職員に対する指導監督を怠って原告に対し何の措置も講じなかった。
4 園部労働基準監督署長は、昭和六〇年二月二七日、京都地方裁判所において、同庁昭和五八年(行ウ)第四〇号療養補償等不支給処分取消請求事件について、その内容が真実と異なることを知りながら、(証拠略)までの証拠について真実と異なる立証趣旨を記載した同日付けの証拠説明書(証拠略)を提出した。
5 京都労働基準局庶務課長補佐元氏和雄は、昭和六〇年七月一五日、京都地方裁判所において、同庁昭和五八年(行ウ)第四〇号療養補償等不支給処分取消請求事件について、真実に反することを知りながら、原告が労働者でなく事業者であるとの虚偽の内容の証言をした。
6 また、同人は、同日、同所において、証言に先立ち、原告に対し、「証拠はないが、証人によって裁判を勝ち抜く。」と述べて、原告を脅迫した。
7 京都労働基準局庶務課長補佐元氏和雄は、昭和六〇年一二月四日ころ、原告が昭和三六年ころから昭和三八年ころまでの間に従業員を雇用して砥石の採掘等の事業をしておらずまた労災保険料を納付していた事実もないことを知りながら、右組合の役員である岡本務、岡本房一及び井内一平を強要し、昭和六〇年一二月四日ころ京都地方裁判所において同人らが証人として証言する際、同人らに、原告が昭和三六年ころから昭和三八年ころまでの間従業員を雇用して砥石の採掘等の事業をし、労災保険料も納付していた旨の偽証をさせた。
8 園部労働基準監督署労働事務官梅垣正明は、昭和六一年一一月二〇日、井内一平の聴取書を作成する際、真実は竹村と原告が昭和三〇年ころに共同で三か月あまり西田敏郎の個人山で採掘していたものであるにもかかわらず、右井内を強要し、同人に対し、原告と森金次郎とが共同で昭和三六年ころから昭和三八年ころにかけて西田敏郎の個人山において採掘していたとの虚偽の内容の供述をさせて、その旨の聴取書(証拠略)を作成した。
9 園部労働基準監督署長は、昭和六二年一月二〇日、大阪高等裁判所において、同庁昭和六一年(行コ)第三六号療養補償等不支給処分取消請求控訴事件について、その内容が虚偽であることを知りながら、8記載の聴取書を書証(証拠略)として提出した。
10 園部労働基準監督署労働事務官梅垣正明は、昭和六二年三月一四日、大阪高等裁判所において、同庁昭和六一年(行コ)第三六号療養補償等不支給処分取消請求控訴事件について、真実は竹村と原告が昭和三〇年ころに共同で三か月あまり西田敏郎の個人山で採掘していたものであるにもかかわらず、8記載の聴取書に基づき、原告と森金次郎とが共同で昭和三六年ころから昭和三八年ころにかけて西田敏郎の個人山において採掘していたとの虚偽の内容の証言をした。
11(一) 園部労働基準監督署長は、平成元年一二月一一日、原告が昭和六三年一一月四日にした労働者災害補償保険休業補償給付支給請求に対し、「労働基準法第九条の労働者に該当しないため」との理由を付した休業補償給付不支給決定をし、同日、原告に通知した。
(二) 同署長は、右決定をする際、不支給決定の理由としては、昭和六一年二月三日付基発第五一号通達の記2の内容を明示した上同通達によれば本件においてはじん肺との業務起因性を認め難いことを明らかにすべきであったにもかかわらず、これをしなかった。
(三) このため、原告は、平成元年一二月二七日、右決定を不服として、京都労働者災害補償保険審査官に対し、審査請求をし、同審査官がした右審査請求に対する平成二年一一月一四日付けの決定により右通達があることを知った。
(四) 原告は、(一)の通知に同通達の内容が明示されていれば、(三)の審査請求をしなかった。
12 園部労働基準監督署野々口課長は、平成元年一二月一九日、同監督署において、原告が11の不支給決定の理由について説明を求めた際、原告に対し、原告が気違いである旨の発言をした。
13 園部労働基準監督署長は、平成二年一月二〇日、同監督署において、野々口課長の12の言動についての円満解決のため原告が相談申立書を提出しようとした際、これを受領すべき義務があるにもかかわらず、これを受領しなかった。
14 1ないし10、11(一)、(二)、12及び13各記載の公務員は、その職務の執行に当たり、1ないし10、11(一)、(二)、12及び13各記載の不法行為を行ったのものであり、原告は、2及び6の不法行為により自由を、1、3ないし5、7ないし10、11(一)、(二)、12及び13の不法行為により名誉を侵害されて精神的損害を受けた。
1ないし10の各不法行為によって原告の受けた精神的損害は金一五〇〇万円を下らない。
また、11(一)、(二)、12及び13の各不法行為によって原告の受けた精神的損害は金三〇〇万円を下らない。
15 よって、原告は、国家賠償法第一条第一項により、被告に対し、慰謝料合計金一八〇〇万円の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の各事実は否認する。
2 同4の事実のうち、園部労働基準監督署長が、昭和六〇年二月二七日京都地方裁判所において同庁昭和五八年(行ウ)第四〇号療養補償等不支給処分取消請求事件について同日付けの証拠説明書を提出したことを認め、その余を否認する。
3 同5の事実のうち、京都労働基準局庶務課長補佐元氏和雄が昭和六〇年七月一五日京都地方裁判所において同庁昭和五八年(行ウ)第四〇号療養補償等不支給処分取消請求事件について原告が労働者でない旨の証言をしたことを認め、その余を否認する。
4 同6の事実は否認する。
5 同7の事実のうち、岡本務、岡本房一及び井内一平が昭和六〇年一二月四日京都地方裁判所において証言したことを認め、その余を否認する。
6 同8の事実のうち、園部労働基準監督署労働事務官梅垣正明が昭和六一年一一月二〇日井内一平の聴取書を作成したことを認め、その余を否認する。
7 同9の事実のうち、園部労働基準監督署長が昭和六二年一月二〇日大阪高等裁判所において同庁昭和六一年(行コ)第三六号療養補償等不支給処分取消請求控訴事件について請求原因8記載の聴取書を書証として提出したことを認め、その余を否認する。
8 同10の事実のうち、園部労働基準監督署労働事務官梅垣正明が昭和六二年三月一四日大阪高等裁判所において同庁昭和六一年(行コ)第三六号療養補償等不支給処分取消請求控訴事件について請求原因8記載の聴取書に基づき証言したことを認め、その余を否認する。
9 同11(一)の事実は認め、同(二)の事実については「同署長は……にもかかわらず」の部分を争い、その余を認め、同(三)の事実については原告が平成元年一二月二七日京都労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をしたことを認め、その余は不知、同(四)の事実は不知。
10 同12の事実は否認する。
11 同13の事実のうち、園部労働基準監督署長が同監督署において原告が相談申立書を提出しようとした際これを受領しなかったことを認め、その余は争う。
12 同14は争う。
第三証拠関係
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである(略)。
理由
一 請求原因1の事実については、原告本人尋問の結果中に原告の主張に沿う供述部分があるが、その供述内容及び(証拠略)の記載内容に照らして右供述部分は採用しないし、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
二 請求原因2の事実については、原告提出の(証拠略)によっても並河賢一郎が原告を脅迫したものとは認められないし、また、原告本人尋問の結果中に原告の主張に沿う供述部分があるが、その供述内容及び(証拠略)の記載内容に照らして右供述部分は採用しないし、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
三 請求原因3については、京都労働基準監督局長が原告から回答を求められたのに対して原告に回答をしなかったことや原告に対する特別の措置を講じなかったことをもって違法な職務行為があったということはできないし、また、このことによって原告の名誉が侵害されたものということもできない。
四 請求原因4及び9の各事実のうち、園部労働基準監督署長が原告主張の証拠説明書を提出したり聴取書を書証として提出した際にその内容が真実と異なることを知っていたことについては、原告本人尋問の結果中にその旨の供述部分があるが、その供述内容に照らして右供述部分は採用しないし、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
五 請求原因5の事実のうち、元氏和雄が証言の際原告が労働者であり事業者でないことを知っていたことについては、原告本人尋問の結果中にその旨の供述部分があるが、その供述内容及び(証拠略)の記載内容に照らして右供述部分は採用しないし、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
六 同6の事実については、原告の主張に沿う原告本人尋問の結果中の供述部分があるが、その供述内容及び(証拠略)に照らして右供述部分は採用しないし、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
七 同7の事実のうち、元氏和雄が昭和六〇年一二月四日ころ原告が昭和三六年ころから昭和三八年ころまでの間に従業員を雇用して砥石の採掘等の事業をしておらずまた労災保険料を納付していた事実もないことを知っていたこと及び岡本務らに偽証を強要したについては、原告本人尋問の結果中にその旨の供述部分があるが、その供述内容及び(証拠略)の記載内容に照らして右供述部分は採用しないし、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
八 同8の事実のうち、梅垣正明が井内一平の聴取書を作成する際に右井内を強要して同人に原告と森金次郎とが共同で昭和三六年ころから昭和三八年ころにかけて西田敏郎の個人山において採掘していたとの虚偽の内容の供述をさせたことについては、原告本人尋問の結果中にその旨の供述部分があるが、その供述内容及び(証拠略)の記載内容に照らして右供述部分は採用しないし、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
九 同10の事実のうち、梅垣正明が偽証したことについては、原告本人尋問の結果中にその旨の供述部分があるが、その供述内容及び(証拠略)の記載内容に照らして右供述部分は採用しないし、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
一〇 同11の事実については、園部労働基準監督署長が不支給決定をする際に、原告主張の通達の内容を明示しなかったり、右通達によれば本件においてはじん肺との業務起因性を認め難いことを明らかにしなかったことをもって、違法な職務行為があったということはできないし、また、このことによって原告の名誉が侵害されたということもできない。
一一 同12の事実については、原告本人尋問の結果中にその旨の供述部分があるが、(人証略)に照らして採用しないし、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
一二 同13の事実については、園部労働基準監督署長が相談申立書を受領しなかったことをもって違法な職務行為があったということはできないし、また、このことをもって原告の名誉が侵害されたということもできない。
一三 以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 山下寛)